Characters

俊一編ショートストーリー

「Everyday Birthday」後編


軽い貧血を起こしたらしい。

秀巳に抱かれ、海の家まで運ばれて、海は畳に横になって休んだ。

しばらくすると落ち着いたが、大丈夫だと何度言っても、秀巳は頑として聞かなかった。


「いいから帰るぞ。ワガママ言うな」

「……」

帰りの車で、海はずっと口をきけなかった。
秀巳君が私を心配して帰ることにしたのはわかってる。
だから秀巳君は悪くない。
悪いのは、せっかくの秀巳君の誕生日を、台無しにした私なんだ。


「このごろ、ずっと暑かったからな」

秀巳がずっと優しいのがかえってつらい。


「練習や買い物で忙しかったし、今日も朝から遠出したし……そりゃ疲れるよ。ごめん。オレがもっと、気をつかうべきだった」

「違う」

それだけ言うのがやっとだった。

助手席のシートに身体をうずめ、海は眠ったふりで少し泣いた。


——そのまま、本当に眠ってしまったらしい。


「海。着いたよ」

優しく起こされ、目をあけるとあたりは見慣れた景色だった。

波の音。
秀巳とよく来る浜咲の海岸。


「具合どう?」

「だいじょうぶ……」

一度寝たら、かなり回復したようだ。


「そっか。よかった」

笑う秀巳。海もつられて笑う。


「今日はごめんね。本当に」

「なんで? オレ今日、すげえ楽しかった」


——海と出かけて、オレセレクトのビキニ着てもらって、一緒に泳いでさ。


「でも、もっとスペシャルにしたかったの」

「海といれば毎日スペシャルだって」

「……」

「月並みかな。でも、それがオレだから」

「月並みなんて……」

私だって、秀巳君といればスペシャルだよ。


「一日だけ特別じゃなくていい。夏だって今日で終わりじゃないし、ビキニだって次も着られるだろ」

「……うん」

「スペシャルな日も、また来るよな」

秀巳の顔がすっと近づいた。
海は自然に目を閉じる。
ありがと、と秀巳が小さく言って、海の唇に唇を重ねる。


「少し歩くか?」

うなずいて、海は車を降りる。

「ほら。これ」

秀巳は後ろのシートから、コンビニの袋を取り出して見せた。


「さっき、海が寝てるあいだに買ったんだ」

「あ——」

「いまからふたりで花火大会しようぜ」

「うん!」

袋の中身は花火セットだ。
ろうそくもちゃんと買ってある。
秀巳は用意周到だ。

海の手にした花火の花びらのような先端に秀巳が火をつける。

シャワシャワシャワ、と独特の音。
オレンジがかった煙のにおい。


「きれい……!」

弾けては広がり、散っていく光。


「花火大会〜!」

秀巳が両手に花火を持って、ドラムスティックをさばくように揺らした。


「危ないよー」

困りながら、海は楽しくて笑ってしまう。

秀巳がロケット花火に点火した。

誕生日のクライマックスだ。


「秀巳君」

「ん?」

「誕生日おめでとう」

「ありがとう」

流れ星のように夜空を飛ぶ花火に願う。

これからも、いつまでもふたり仲良くできますように。



次回更新は2009.2.19です。

初出 電撃Girl's Style2008年9/23号